「季節の変わり目になると風邪をひく」「一度風邪を引くと長引いてしまう」など、体調の悩みをお持ちの人に知っていただきたい健康知識の一つが“免疫力”です。
体調を崩しやすい人と、そうでない人の違いには免疫力が関係し、免疫力を高めることで季節の変わり目に起こりやすい体調不良を防ぐことが期待されます。
今回は免疫力の基礎情報に加え、日々の生活で気をつけたい免疫力を高める食事や生活習慣のポイントについてご紹介します。記事の内容を実践し、季節の変化や風邪に負けない体づくりを目指しましょう。
免疫力とは? 身体への影響
「免疫力」という言葉は医学的には存在せず、厳密な定義のある言葉ではありません。一般的には「疫(病気)から免れる力」として、病原体などの異物から体を守るために備わっている体の仕組み・機能を指します。
免疫の仕組みは非常に複雑であり、免疫機能を単純な言葉で表現することは困難です。食事などの工夫のみで、ワクチンのように有効な感染症防御を行うことは難しいと考えられています。まずは免疫機能の基礎情報を理解し、普段の生活の中で意識的に向き合うようにしましょう。
免疫は主に、生まれつき備わっている「自然免疫」と後天的に身に付く「獲得免疫」に大別されます。自然免疫は、あらゆる生き物がもつ基本的な生体防御システムであり、病原体が体に侵入した際、真っ先に反応し排除します。
獲得免疫は、自然免疫が得た病原体の情報に合わせ抗体(武器)を作り戦い、記憶します。そのため、次に同じ病原体に出会った際は、すぐに攻撃をしかけることが可能です。この獲得免疫の仕組みを利用し病気を予防したり、症状を軽くしたりする目的でワクチンが生まれました。
免疫機能が低下するとどうなるのか
■感染症にかかりやすくなる可能性がある
免疫機能が低下すると、ウイルスや細菌などの病原体に対する抵抗力が弱まり、感染症にかかる可能性が高まります。普段は感染しにくい病原体にも感染しやすくなり、症状が重くなったり長引いたりする恐れもあります。
■肌が荒れる
肌にも免疫機能が備わっており、外部からの微生物や病原体の侵入を防いでいます。免疫機能が低下すると微生物や病原体が侵入しやすくなり、炎症反応によってニキビなどの吹き出物ができやすくなります。場合によっては口唇ヘルペスなどの症状が出る可能性もあります。
■お腹の調子が悪くなる
免疫細胞の約7割は腸内にあり、免疫機能が低下すると腸内細菌叢(腸内フローラ)のバランスが崩れやすくなります。その結果、腸内環境が乱れてお腹を下しやすくなります。
免疫への意識は高まっている?
最近では、新型コロナウイルス感染症などの影響もあり、健康食品等を扱う企業が各社免疫力に関する健康意識等の調査データを公表しています。
キリンホールディングス株式会社が行った「免疫」に関する意識調査では、「免疫」が健康に繋がると知っている人は9割以上という結果が出ています(出典:「免疫」に関する意識調査について)。ただし、免疫に自然免疫と獲得免疫があると知っているのは4割弱、「免疫」の維持・向上のために実際に行動している人は3割程度となっています。
また内閣府の18歳以上の男女向けに行った世論調査では、自分の健康を意識している人の割合が90%以上でした(出典:内閣府「世論調査」)。免疫への意識向上に加え、自身の健康に対する需要の高まりが伺えます。
免疫力の維持に欠かせない「腸」の働き
免疫力に大きな影響を与えるのは、腸の働きです。腸の壁の内側には全身の約7割の免疫細胞が集中しており、腸内細菌の影響を受けます。そのため、生活習慣や食生活の乱れなどで腸内細菌のバランスが崩れると免疫機能が低下します。
免疫細胞を活性化させるためには、腸内の悪玉菌と善玉菌のバランスを保ち、腸内環境を整えることが重要です。善玉菌を増やすためには乳酸菌やビフィズス菌などが含まれるヨーグルトや納豆などの発酵食品を摂ると良いでしょう。
関連記事:【管理栄養士監修】腸内環境を整える方法や、食べ物との関係を解説
免疫力を高める生活習慣のススメ
免疫力を高めるためには、生活習慣を整えることが重要です。意識したい基本的な生活習慣について紹介します。
栄養バランスを意識した食生活
免疫細胞の約7割は腸内に存在するため、タンパク質(肉や魚、卵や大豆製品など)、脂質(肉や魚など)、炭水化物(ご飯やパンなどの糖質、海藻や野菜に含まれる食物繊維)、その他ビタミンやミネラルのバランスが良い食事を摂って腸内環境を整えましょう。
適度な運動
ジョギングやウォーキングなどの適度な運動をすると、免疫反応に関わる白血球の一つであるリンパ球を放出するホルモンが生成され、鼻や口の粘膜などで働く代表的な免疫物質であるIgAが増えると言われています。
ただし、疲労や筋肉痛を伴う激しい運動はストレスになるため、ストレスに弱い免疫にとってマイナスの影響となります。息切れせず運動しながら会話できる程度が好ましいでしょう。
参考までに、厚生労働省の「健康づくりのための運動基準2013」によると、下記を運動量の基準値としています。
“強度が3メッツ以上の運動を4メッツ・時/週行う。
具体的には息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う。”
「メッツ」とは運動強度の単位を表します。
座ったり、横になっていたりする安静時の状態を1とした時と比較し、何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示します。
3メッツ以上の運動(息が弾み汗をかく程度の運動)には、ウォーキングや自体重を使った軽い筋力トレーニングなどがあげられます。
睡眠時間をしっかりとる
自律神経は免疫細胞と関係があり、十分な睡眠によって自律神経のバランスが整うと免疫細胞が活性化しやすくなります。
質の良い睡眠をとるためには、食事や運動は寝る3時間前までに済ませ、就寝時間は一定にして休息と活動のメリハリをつけましょう。
温活で体温を上げる
体温が上がると、血流が良くなり免疫細胞が体にめぐりやすくなり動きも活発になるとされています。一方体温が1℃下がると免疫機能は約30%下がると言われています。免疫細胞が正常に働くことができる体温は36.5℃程度で、風邪を引いたときに発熱するのは、体温を上げることで免疫機能を向上させるためです。
身体の基礎体温を健康維持に最適な体温まで上げる「温活」を取り入れてみましょう。たとえば体を温める働きのある生姜やニンニク、ねぎなどの野菜を摂る、38~40℃の熱すぎないお風呂に15分程度浸かる、前述の適度な運動などがあげられます。
免疫力と食生活。栄養素・食材のポイントは?
免疫力アップのためには腸内環境を整えることが重要で、食生活が大きく影響します。免疫力を高めるために必要な栄養素と食材のポイントをご紹介します。
乳酸菌
乳酸菌は腸内で悪玉菌の繁殖を抑え、腸内環境を整える働きがあります。チーズやヨーグルト、漬物、味噌などの発酵食品に含まれています。乳酸菌を一度摂っただけでは、腸内の善玉菌はなかなか増えないため、継続して摂ることが重要です。
関連記事:知っておきたい乳酸菌・ビフィズス菌の魅力
タンパク質
肉や魚、卵や大豆製品などに含まれるタンパク質は、細胞の15%を占める構成成分です。不足することの無いよう、毎食炭水化物や野菜などと一緒に摂りましょう。肉に偏ると脂質が多くなるため、魚も摂りつつ、脂質・炭水化物とのバランスを意識してみてください。
タンパク質・脂質・炭水化物のバランスについては下記を参考にしてみてください。
関連記事:【管理栄養士監修】理想のPFCバランスや食事とは?
ビタミン
免疫細胞の強化には、ビタミンの摂取が必要です。それぞれご紹介します。
※各種ビタミンの上限値(耐要上限量)は厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020 年版)」にて定められています。内容を確認し、過剰摂取は控えましょう
ビタミンA
ビタミンAは体内で生成できないため、食事で賄う必要があります。レバーやうなぎ、卵や牛乳、人参などに豊富に含まれ、免疫機能の向上や皮膚や粘膜の健康維持、血管を強化するなどの働きがあります。
菌やウイルスの侵入を防ぐためには、のどや鼻の粘膜が重要であるため、ビタミンAを摂ることで免疫機能の向上が期待されます。
おすすめレシピ【人参と大根の酢の物】
人参と大根を千切りして、ポリ袋で塩もみし、酢と醤油・砂糖で和えたさっぱりレシピです。
ビタミンB6
免疫機能を維持し、タンパク質からのエネルギー産生を助ける栄養素です。抗アレルギー作用にも関与したり、皮膚の抵抗力を高めたりします。カツオやマグロ、サバや鶏肉、バナナなどに含まれています。
おすすめレシピ【サバ缶とトマトのチーズ焼き】
サバの醤油煮に、角切りしたトマトとチーズをのせてトースターで5分焼いただけでできるお手軽レシピです。トマトでビタミンCやAを摂ることもできます。
ビタミンC
キャベツやほうれん草、ブロッコリーやじゃがいも、柑橘類に多く含まれており、免疫機能に関わる白血球の働きを助け、免疫力の向上が期待されます。またビタミンCは、抗酸化作用をもつ栄養素でもあります。
おすすめレシピ【じゃがいもとキャベツの塩昆布炒め】
塩昆布とごま油だけで味付けができるお手軽レシピです。
じゃがいもは食べやすい大きさに切り茹でておきます。
キャベツも食べやすい大きさに切り、フライパンにごま油を熱し炒めます。
キャベツがしんなりしてきたらじゃがいもと塩昆布を加え炒め合わせます。
全体に味が馴染んだら完成です。
ビタミンE
ビタミンEは抗酸化作用があり、血管の健康を維持する働きがあります。血管が正常に機能することで、皮膚の抵抗力を支えます。うなぎやかぼちゃ、ほうれん草やアーモンド、アボカドなどに豊富に含まれています。
おすすめレシピ【アボカドとツナのサラダ】
アボカドとツナ、水菜をポン酢でサッと和えたサラダです。ツナでタンパク質も摂ることができます。
生活習慣を整え、免疫力をアップして健康的な体づくりをしましょう
季節の変わり目に体調を崩し、風邪を引きやすいという状況に悩んでいる人は、病原体などの異物から体を守るために備わっている体の仕組み「免疫力」に着目してみてください。
- 栄養バランスを意識した食生活
- 適度な運動
- 睡眠時間をしっかりとる
- 温活で体温を上げる
特に、免疫細胞の約7割は腸に存在するため腸内環境を整えるバランスの良い食事を摂ることがおすすめです。記事内で紹介した栄養素や食材を意識的に摂取してみてください。
日々少しずつでも良いので、生活習慣と食生活を整えていつも笑顔で健康な毎日を送りましょう。