骨と骨のつなぎ目である関節。歩く、立ち上がるなどの日常の動きでひざに痛みを感じる時、関節では何が起きているのでしょうか。今回は関節の仕組み、関節痛の原因となる病気や、ひざに関節痛がある場合に自分でできるセルフケアの方法を紹介します。
関節の仕組み
人間の骨と骨をつなぐ関節は、筋肉の収縮によって動かされ、正常な運動や姿勢を保つ役割を担っています。また、運動時には関節がクッションとなり、骨にかかる負荷を吸収して衝撃を緩和します。
関節内部の構造を詳しく見てみましょう。骨と骨は直接触れ合っているのではなく、関節軟骨と、関節液(かんせつえき)を介して間接的につながっています。
関節の周囲を取り囲んでいるのが滑膜(かつまく)です。滑膜(かつまく)には関節液を産出する機能もあります。関節液(かんせつえき)は衝撃を吸収するほか、関節軟骨に栄養を供給する役割も担います。
関節痛の原因は?関係する病気ごとの症状を解説
関節に痛みが生じる原因は様々ですが、その中でも多くの人を悩ませるのが加齢によるものです。加齢によって軟骨がすり減ったり、筋肉が衰えたりすると、関節を支える役割がうまく機能しなくなり、慢性的な痛みが生じます。関節液(かんせつえき)の減少も加齢による関節痛の一因です。
また、関節は可動部分であり刺激を受けやすいため、年齢に関係なく急性の痛みが起こることもあります。
関節痛は痛む部位や数、慢性か急性かによって診断が分かれます。腫れや赤みなどの炎症がある場合は、加齢以外の原因が潜んでいる恐れがあるため速やかに医療機関を受診しましょう。
変形性関節症
慢性で、1ヵ所のみ痛む場合は「変形性関節症」の疑いがあります。変形性関節症は加齢や肥満による、関節軟骨の減少が原因で起こるものです。ひざの関節に生じることが多いですが、股関節や背骨、手や指の関節に起きることもあります。
内分泌疾患や関節リウマチなどの膠原病(こうげんびょう)
慢性的に複数の関節が痛む場合は、重篤な病気が原因である恐れがあります。速やかに医療機関を受診してください。
関節リウマチでは免疫機能の異常により、全身の関節に炎症が生じます。中年以降の女性に多く、左右対称かつ複数の関節痛、朝の関節のこわばりなどが代表的な症状です。
全身性エリテマトーデス(SLE)も関節痛をもたらす病気のひとつです。20代~40代の女性に多く、倦怠感の他に、顔に赤い発疹が現れる蝶形紅斑(ちょうけいこうはん)や日光に当たると湿疹が出るなどの症状が特徴的です。関節痛も一定の場所にのみ起きるのではなく、その時々によって痛む場所が変わります。
化膿性関節炎
化膿性関節炎とは、関節内部に菌が入り、痛みや赤み、腫れが生じる急性の炎症です。関節内部に菌が入る原因としては、注射や深い外傷などで関節内に直接侵入すること以外に、他の部位で起きた感染から血液を経由して菌が関節に侵入することが考えられます。
化膿性関節炎は、進行すると関節組織の破壊を伴うこともあります。関節の激しい痛みや腫れのほかに発熱や悪寒、食欲不振などの全身症状がみられる場合には早急に医療機関で診察を受けましょう。
痛風
痛風は体内の尿酸が過剰になった状態が続き、足の関節などに尿酸の結晶が沈着して、関節に激しい炎症が急激に発症する病気です。中年男性に多く見られ、とくに足の親指の付け根部分に痛みが現れやすいと言われています。
尿酸はアルコール飲料や、食品に含まれる「プリン体」が体内で代謝されることでつくられます。そのため、プリン体を多く含む食べ物(レバー類、イワシやカツオなどの魚介類など)の食べ過ぎには気を付けましょう。血中尿酸値が高い状態が続くと腎機能障害や尿路結石、生活習慣病などを招くこともあるため、早めの対応が必要です。
捻挫
スポーツや交通事故などで体に衝撃を受けた後、足首やひざ、肩などの関節に痛み、腫れが生じた場合、捻挫(ねんざ)を疑いましょう。捻挫は、外傷によって関節を支える靭帯や組織が損傷した状態です。
この状態で無理をすると、他の組織の損傷を招き、慢性的な痛みや関節の変形に波及することもあります。「そのうち治るだろう」と放置せず、早期に適切な診断と治療を受けることが重要です。
風邪やインフルエンザ
風邪やインフルエンザにかかると、ウイルスを退治するために、体内でプロスタグランジンという物質が産生されます。この働きで関節痛や筋肉痛が引き起こされることがあり、多くの場合は原因となる病気が改善するとともに消失します。
関節痛になりやすい人とは?
膝や股などの変形性関節症は特に高齢者に起こりやすく、ロコモティブシンドロームによって介護が必要な状態になってしまうケースも少なくありません。ロコモティブシンドロームとは、加齢によって筋力が衰えたり、関節が炎症を起こしたりすることで要介護や寝たきりになってしまう状態を指します。
高齢者以外であっても、関節痛のリスクはあります。中年層の場合、男性は痛風、女性は関節リウマチによる関節痛を発症しやすい傾向にあります。また、膠原病などによる関節痛は若い世代でも発症するため、年齢を問わず、関節痛が長引いている場合は早めに医療機関を受診しましょう。
関節痛の予防とセルフケア
関節痛の原因にはさまざまなパターンが考えられます。手術などの治療で改善が見込めるものもありますが、「これ以上悪化させないこと」を目標に医師の助言を受けながらセルフケアを続ける取り組み方法をご紹介します。
関節に負担をかけない
特に症状の出やすい膝関節は、サポーターを装着して温めるなどして日頃から冷やさないように心がけましょう。なるべく同じ姿勢を続けないことも肝心です。
また、関節に負担をかけない歩き方も意識してみてください。膝を伸ばしてかかとから着地し、つま先で後ろへ蹴りましょう。また、自分の足にぴったりで、クッション性のある靴を選ぶのも大切です。手持ちの靴が自分の足に合わない場合は、インソールなどでサイズや形を調整することをおすすめします。
簡単な運動
関節痛は動かさないほうが良いと思われがちですが、長期間安静にしていると関節周りの筋肉や腱が固まってしまい、日常の動作でかえって痛みが生じるケースもあります。高い場所にある物を取る、階段を上り下りするなどの動作を問題なく行うためのセルフケアとして、日常生活で無理なくできる運動を取り入れてみましょう。
椅子に座って床に広げたタオルを足の指だけで手繰り寄せたり、片方の足をのばしたまま、ゆっくり上げ下げしたりなど、簡単な動作で大丈夫です。関節周りの筋肉を鍛えることは関節痛の予防としても重要ですので、まずはラジオ体操レベルの運動から始めてみてはいかがでしょうか。
食生活の工夫
軟骨の主成分※はコラーゲンやヒアルロン酸、そしてプロテオグリカンです。加齢とともに減少する関節軟骨を内側からサポートするために、健康的な食事を心がけましょう。
※水分を除く
サプリメントなどの成分としてよく耳にするグルコサミンやコンドロイチンはプロテオグリカンの原料となる成分のひとつです。他にも、ビタミンB類は筋肉疲労の回復、ビタミンEは血行不良の改善が期待できることが知られています。食事で十分に補えない場合は、ビタミン剤もあわせて検討しましょう。
ただし、ビタミン剤やサプリメントには傷ついた関節を治したり、長期間痛みを抑えたりする効果はありません。関節の痛みが強く、生活に支障が出ている場合は必ず医療機関を受診してください。
市販薬の活用
関節痛を抑えるためにはロキソプロフェンなどの解熱鎮痛剤の内服が効果的です。医師や薬剤師に助言を受けながら、消炎鎮痛成分の入ったシップなどの使用も検討しましょう。慢性的な関節の痛みには、温感タイプのシップも有効です。
関節痛とうまく付き合っていくために
日常生活の中でも起こる頻度の高い関節痛。その原因は様々で特定が難しいため、不安がある場合には早めに医療機関を受診しましょう。他の病気が原因でない関節痛は、市販薬で痛みを緩和することもできます。いずれにしても自己判断で対処せず、医師や薬剤師と相談して対策を考えることが重要です。
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