日本では古くから「湯治(とうじ)」といって、健康や治療のために温泉が使われてきました。その流れをくみ、現代では一般家庭でも入浴が習慣づいています。疲労回復がメインと思われがちな入浴ですが、実は他にも様々なうれしい効果が! 今回は、シャワーだけでは得られない、入浴の効果と入り方を紹介します。
入浴の三大作用とは
入浴では、主に「温熱作用」「静水圧作用」「浮力作用」の3つの作用が得られると言われています。代表的な入浴の作用について具体的に見ていきましょう。
温熱作用
お湯につかり、体を温めることで、血管が拡張して血液やリンパ液の流れがよくなり、代謝が活発になります。温かさで筋肉のコリや緊張が和らぐため、痛みの軽減も見込めるでしょう。
さらに自律神経の副交感神経が優位になると、心身ともにリラックスして寝つきが良くなり、良質な睡眠で体力の回復も期待できます。
静水圧作用
湯船につかると、体全体に水圧がかかります。水圧で横隔膜が上に押し上げられるため、肺の容量が減って呼吸数が増加し、肺の機能を活性化。さらに体表面の静脈にも水圧がかかり、重力によって下半身に溜まりがちな血液が心臓に戻りやすくなります。全身の血液循環が良くなることで、足のむくみ解消も期待できるでしょう。
浮力作用
入浴時は、浮力によって重力の影響を受けにくくなり、筋肉や関節にかかる負荷を軽減できます。筋肉の緊張もほぐれるので腰痛の緩和にも効果的です。さらに、浮遊感によるリラックス効果も望めます。
ほかにもこんな作用が!
湯船につかれば、垢などの皮膚の表面の汚れを流すことができます。体が温まって毛穴が開くと、不要な皮脂も取り除けます。
また、湯船内でストレッチをするのも有効です。入浴中は温熱作用によって筋肉の柔軟性が高まりやすくなるので、体が硬い人でもストレッチを効果的に行えます。
お風呂の入り方別!期待できる効果
入浴している時間や湯温によって、得られる入浴効果は変わります。ここでは入浴効果別に、お風呂の入り方を紹介します。いつも同じお風呂に入るのではなく、目的に合わせた入浴を試してみてはいかがでしょうか。
安眠・ストレス解消
38~40℃程度のぬるめのお湯に、20~30分ほどゆっくりつかると、リラックス効果が高まります。寝つきの悪さやストレスの解消にも役立ちます。長湯が苦手な場合は、体に負担の少ない半身浴から試してみましょう。
アロマキャンドルの香りや音楽などで、バスタイムをより充実させるのもおすすめです。浴槽で使える枕(バスピロー)などを使うと、首や肩への負担を軽減でき、よりゆっくり休めます。
むくみ解消
むくみとは、皮下組織に余分な水分がたまった状態のこと。水分は重力で下へ向かうため、ふくらはぎから足先に多く見られます。なお、筋肉の量やホルモンの関係で、女性は男性よりもむくみやすいと言われています。
入浴でむくみを解消したい場合は、ややぬるめの40℃前後のお湯をたっぷりと張り、長めに全身浴をしましょう。体全体に水圧がかかり、血液やリンパ液の流れがよくなるため、むくみの解消に効果的です。ただし、この入浴法は体全体に負担がかかるため、妊娠中は避けてください。
美肌効果
健康的な肌を維持したいならば、40℃程度のお湯に入浴するのがおすすめです。一番風呂は肌にとって刺激が強いため、できるだけ避けたほうがよいとされていますが、入浴剤を使って肌への刺激を緩和させることも可能です。
高温のお湯は肌に本来備わる油分を流してしまい、乾燥肌の原因となることもあるため、避けましょう。また、長湯も禁物。高温のお湯につかった時と同様、肌のバリア機能を低下させる原因になってしまいます。
筋肉の疲労回復
筋肉の疲れをとりたい場合は、42~43℃の熱めのお湯に短時間つかりましょう。湯船の中で軽くストレッチやマッサージをするのもおすすめです。水圧強めのシャワーを疲れている部分にあてるのも効果的。
なお、ズキズキとした筋肉痛がある場合は、入浴は避けましょう。スポーツ直後の入浴もNGです。スポーツ後は十分にクールダウンして、水分補給をしてから入浴しましょう。
リフレッシュ効果
やる気を出したい時は、42~43℃の熱めのお湯に短時間つかりましょう。温度刺激により交感神経が緊張状態になると、心身共に活動的に。ただし、長湯は禁物です。熱めのお湯に長く入浴すると脱水症状となり、意識障害を引き起こす危険もあるので注意しましょう。
入浴時の注意点
入浴にはうれしい効果がたくさんあります。ただし、気をつけなければかえって健康を害してしまうことも。ここでは安全に入浴するためのポイントを紹介します。
ヒートショック
近年、ニュースで取り上げられることも多くなったヒートショック。急激な温度変化による血圧の上下変動で、脳や心臓に負担がかかる状態のことです。最悪の場合、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こし、死亡事故につながるおそれもあります。
ヒートショックが起こりやすいのは、気温の低い冬場です。浴室や脱衣所をあらかじめ温めておく、湯船に入る前にかけ湯をするなどの予防策をとりましょう。はじめから熱いお湯につかると、心臓に負担をかけてしまいます。はじめはぬるめのお湯につかり、より温まりたい時は足し湯や追い炊き機能で湯温を上げましょう。
妊娠中は湯疲れに注意
妊娠中でも湯船につかることは可能です。ただし、長時間もしくは頻繁な入浴で体力を消耗しないよう、多くても1日2回、湯船につかる時間は長くても10分までにしておきましょう。
42℃以上の高温のお湯につかることも避けましょう。のぼせや立ちくらみによる転倒のほか、深部体温の上昇による胎児への悪影響が懸念されるためです。一方、湯温が30℃以下だと熱を奪われないようにと血管が収縮し、血圧が上がりやすくなります。体に負担をかけないためにも適温(38℃~41℃くらい)を守りましょう。
なお、妊娠中は無理してまでお湯につかる必要はありません。体調に合わせてシャワーと使い分けましょう。
入浴前後の水分補給はしっかりと
入浴中は水分が大量に失われます。脱水を起こさないように、入浴前後には必ず水分をとりましょう。常温の水や体温に近い白湯のほか、体への吸収が早いスポーツドリンク、経口補水液などがおすすめです。
ジュースや炭酸飲料、カフェインの入った飲み物は入浴前後の水分補給には不向きと言われています。また、入浴の直前・直後にアルコールを飲むのは禁物です。
入浴効果をより高める工夫
ここからは、さらにバスタイムを充実させる方法を紹介します。
お風呂のお供で季節を感じて
日本では、昔から入浴剤代わりに植物や果物を入れる習慣がありました。端午の節句の菖蒲(しょうぶ)湯や、冬至の柚子湯などが代表的なものです。
昔は邪気や災厄を祓う「縁起の湯」としての意味合いが強かったようですが、鮮やかな見た目とさわやかな香りで気分転換が図れるため、健康維持の取り組みとしてもおすすめです。旬のものと一緒に入浴して、季節を感じてみてはいかがでしょうか。
なお、肌が弱い人やアレルギー体質の人、妊娠中(特に初期、臨月)の人には刺激が強い場合があります。事前に医師に相談しましょう。
薬用入浴剤で温浴効果アップ
ゆっくりお風呂につかりたい時は市販の入浴剤を入れるのもおすすめです。薬用入浴剤を入れると、沸かしたてのさら湯よりも高い温浴効果や洗浄効果が期待できます。使用上の注意をよく読み、自分の好みに合った入浴剤を選びましょう。
ただし、肌質やアレルギーの有無によっては、肌荒れなどの原因になってしまうおそれも。妊娠中も肌が過敏になっているため、使用前に医師へ相談してください。
ひと手間かけて入浴効果を高めよう!
入浴には、シャワーだけでは得られない効果がたくさんあります。その日の自分の疲労度や疲れている部位などに合わせて、湯温や入浴時間を変えると、入浴効果を高められます。気分に応じて入浴剤なども取り入れて、毎日のバスタイムをより充実させましょう。
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